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カメラアングル
撮影時のカメラのティルト角度を「アングル」、カメラの位置を「レベル」とそれぞれ役割が変わるため分けて考える。
カメラの角度を「カメラアングル」と云う。カメラの向きを考えるとき、被写体を切り離せないことからカメラの高さとも関係してくる。
おそらく、撮影を学び始めたフェーズにおいては、見せたいものが入る向きで構えることになるだろう。筆者自身そうであった。水平に対する向きの考え方は概ねこれで差し支えない。加えるなら、「見せたくないものを画面外に追いやる」、また動画である以上時間軸があり、「カット割」も想定した上で、「背景」と「照明」をきちんと演出できるのが理想となる。これは今後の撮影ワークフローで言及する。
一旦、カメラの”アングル=向き”と”レベル=位置”によって伝える情報が変わることを認識するだけで、「カメラをどう向ければいいのか」という迷いが一気に減る。特に高さには強烈なパワーがあり、被写体にアクションもセリフもない場合においても意図を伝えることが可能だ。種類と役割について、見ていこう。まずはアングル。
オーバーヘッド(Overhead)
真上から下向きのショット。真俯瞰。鳥瞰図。

役割1:位置関係の整理
被写体やオブジェクトの位置関係の整理や複雑な移動経路を説明するのに適している。ゲームのミニマップである。
役割2:神としての視点
天を仰いだ先の視点となるため、はるか上空から小さな世界を見守る神の視点とも言え、霊的なエネルギーを感じさせることができる。超人や上空からの脅威となる存在が覗き見ているという視点を再現したり、地上の人物が視線を向ける様子を視点の先から確認することができる。
役割3:客観視
自動的に被写体との距離が相当に開くため、第三者目線となる。物語から精神的に切り離され、安全な位置からの確認作業という印象を抱かせる。
セッティングにあたって

通常の三脚では高さも稼げず、また高くできたとしても、真下には脚があり映ってしまうため、ブーム三脚や、非常に長いアームを備えた三脚2本を使用したり、背景紙を固定するような専用のスタンド、天井への設置を検討したり、または屋内であってもドローンなど、設置方法を工夫する必要がある。この特殊な位置にはもちろんオペレーターが手の届く範囲に陣取れないことも多く、この場合はモニタリング、フォーカシング、パンニングにはリモート化か、ディープフォーカスで操作をしない選択となる。
ハイアングル(High Angle)
カメラを下にティルトダウンさせたアングル。被写体の目線より上から、見下ろす。ハイからのアングル。

カメラの位置ではなく、向きであるため、被写体が低位置の場合、膝の高さでカメラを構えてもハイアングル。

後述するローアングルと力関係という意味では対象的な役割となっており、しばしばローアングルとセットで使われることが多い。

観客に何を理解させる必要があるのか、最優先となる要素が下記の選択肢(など)であればハイアングルを採用する。
役割1:弱体化
上下はそのまま力関係を感じさせる役割がある。擬似的に俯いて見えることとなる。
見下ろすことで被写体を弱体化させられる。被写体は観客の下におり、小さく見えパワーを減らす。部下、劣勢の悪役、傷ついたキャラクター、乗り越えた壁、崩れた建物など立場が下のキャラクターや弱々しさ、孤独感、敗北感を付与したい場合、これを選ぶ。
一方で、登場人物が画面奥を見ている場合、弱い立場を見下ろす目線への感情移入となるため、向きによっては強化とも言える。
役割2:高さの強調
被写体を手前に据えることで、地面にある物体とのサイズ差が生まれ、間の空間が広がる。より高所に感じられ恐怖心を生む。
役割3:空間の拡張
被写体の上部に空間が存在することを示唆できるため、世界を広げる役割がある。
役割4:位置関係の整理
オーバーヘッドに準じ、オブジェクトの位置関係の整理や複雑な移動経路などの説明の役割がある。
セッティングにあたって
僅かなハイアングルであれば問題は少ないが、2~2.5mの高さになる場合、この高さでカメラを保持できる大型で上部な三脚が必要。三脚は伸ばすほどに振動しやすくなるため、ストーンバッグを検討する。オーバーヘッドに続きオペレーターの手が届きにくいため、解決策としては安全を確保した上でイントレなどの台座やリモート化を選択する。
ローアングル(Low Angle)
カメラを上にティルトアップさせたアングル。被写体の目線より下から、見上げる。ローからのアングル。

カメラの位置ではなく、向きであるため、被写体が高い位置の場合、頭の高さでカメラを構えてもローアングル。
前述のハイアングルと力関係という意味では対象的な役割となっており、しばしばハイアングルとセットで使われることが多い。

最優先となる要素が下記の選択肢(など)であればローアングルを採用する。
役割1:強化
見上げることで被写体をパワーアップさせられる。目線が画面の上を向くことで擬似的に胸を張って見える。
被写体は観客より上におり、大きく見えパワーを増す。上司、悪役、覚醒したキャラクター、立ちふさがる壁、巨大なビルなど立場が上のキャラクターや力強さを付与したい場合、これを選ぶ。
一方で、登場人物が画面奥を見ている=カメラに背を向けている場合、強い立場を見上げる目線への感情移入となるため、向きによっては弱体化とも言える。役割4参照。
役割2:高さの強調
届きそうで届かない、カメラ側が高低差のある弱い立場に置かれた状況を生む。
役割3:空間の収縮
被写体と近い場合、共に狭い空間に閉じ込められた錯覚を与え、世界を狭める役割がある。
役割4:弱体化
役割1と矛盾するように感じるが、被写体が俯いて怯えている場合は、表情を捉えた上で自身より上位に脅威があることを示唆できる。
ダッチアングル(Dutch Angle)
ロール方向に傾けた水平が取れていないアングル。ロール軸の回転であり、ティルト軸の回転であるハイアングル、ローアングルと組み合わせてもいい。

役割:違和感、緊張感、混乱
不安定になり、不快感、緊張感が生まれる。良からぬことを決意する、悪事を告白する、言葉の裏に隠された真意を示唆する場合など違和感を生みたい場合、これを選ぶ。
我々が見慣れた世界のルールから逸脱するため、強烈な違和感を生み、異常事態を観客に知らせる。
角度が大きくなるほど効果が強くなる。MAXは上下逆。もうカオス。
つまり、傾けることで写したい被写体全体が入るという理由で選択すると、不安定という不要な意図が生じてしまうため、あくまでストーリーテリングに準じ選択する。また、多用すると観客が疲れる。
小煩いことを言うと、然るべき流れで意図的に水平を崩したショットはダッチアングル、意図せず水平が狂ったショットはミスであり観客のストーリー理解を阻むノイズとなる。
カメラポジション(レベル)
カメラの高さを「カメラポジション」「カメラレベル」と云う。
カメラの縦位置は被写体と観客の感情の繋がりに直結する。観客との対話においてどのような意味を生むのか理解し、アングルと合わせて検討する。
アイレベル(Eye Level)
目高(めだか)とも呼ばれ、登場人物の目線の高さでカメラを構える。我々が普段見慣れている高さであることから一番安定した、不要な意図を感じさせずに済む高さ。

縦位置=高さの呼称であり、アングルと掛け合わせることができる。ハイポジションはハイアングルと、ローポジションはローアングルと組み合わせることが多い。

被写体を基準とした高さであるため、座っている人物も目線を合わせた高さはアイレベルと呼ぶ。

被写体と目線を合わせることで、登場人物との感情の繋がりを生む。また、観客と劇中の隔たりを取り払うことができる。落ち着いた、パワーのないショットとなり得るため、アイレベルである必要性を言語化出来たときに使用する。
ショルダーレベル(Shoulder Level)
わずかに、微妙~にローアングルの効果を発揮する。会話シーンではフレーミングの項で後述する肩なめショット(OTS)に繋がる。

アイレベルでは画面内に収めたいオブジェクトが入り切らない、または同じくフレーミングの項で後述するヘッドルームが空きすぎる場合、こちらを検討しても大きな問題にはなりづらい。流れによって力関係は関係なく会話の目線が合っていると捉えられるため。
ヒップレベル(Hip Level)
主題がヒップ周辺の高さにある場合の特殊な高さ。刀や拳銃以外にも、ポケット、握る手など注目しづらい重要なオブジェクトがあれば選択する可能性がある。

また、一方が立ち、もう一方が座りや身長が極端に低い場合の会話シーンで肩なめショット(OTS)とした際、腰を見せたいわけではなくこれになることもある。こちらは違和感のある意図を生むわけではなく、問題ないことが多い。映像はスチルと違いカットの時間的な連続性があり、「前後のカットとの繋がりとして必要である」という意図があればOK。
ニーレベル(Knee Level)
ローアングルショットとしての力強さを持たせたい被写体がある場合や、足取りと背景との関連性を見せたい場合などにはこれ。

または移動する足元を捉えることで地面が近くなり速度を誇張することもできる。次のグラウンドレベルと合わせ、足元の動きは通常重心の動きとなることが多く、人物の動き出し、停止といったモチベーションや緊急感に繋げることができる。
グラウンドレベル(Ground Level)
地面の高さで捉えるものと言えば、靴や足運び、落ちているオブジェクト、地面の質感。これらを映す必要があるか、それとも消去法で他にこれらを超える重要度の被写体がないか、上方向にある他の要素を隠さなくてはならない場合に選択する。正体を隠したい犯人など。

地面を捉えた状態で人物が横切ることで、進行方向を強調する役割もある。
次回はカメラワーク
カメラアングル、レベルを組み合わせ使い分けることで、登場人物の心理や物語のテーマを視覚的に伝える、いわば脚本という小説に近い状態に加えはるかにストーリーの補強ができる。ミスると誤った情報を観客に渡すこととなり、混乱を生む。
特に同じ状況でも適切なアングル、レベルを使うことで、観客の感情をコントロールできる強力なテクニックである。”単なる撮影技法”で終わるものではなく、”視点のデザイン”という重要な演出手法であることから、何を表現すべきカットなのか、シーンなのか、テーマなのか、ここから外れずパズルのように組み立てられるように訓練する価値が十二分にある。
というところが分かったところで、ショットを組み立てる際のフレーミングの前に、もう2つ、公式を知っておこう。カメラそのものの動きと、ショットのサイズである。次はこの一つ、カメラの動き、カメラワークへ続く。
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