撮影ワークフロー

04.カメラコントロール3/3;撮影ワークフロー

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設定3:絞り(アイリス)

レンズ内には光の通り道を絞る機構がある。複数枚の羽根を開閉し、通過する光の量を調節する。この羽根の機構そのものを「アイリス」、アイリスの開口部(穴)を絞りと呼ぶが、あまり区別して使われていない。

レンズ側のアイリスリングを回転させるレンズと、電子制御でカメラ側でダイヤルを回しレンズ内の羽根を動作させるレンズがある。電子制御のみを想定し、アイリスリングがないレンズもある。近年のレンズはどちらにせよデジタルカメラ用にレンズ自体にボディとの電子接点があり、どの程度羽根を開けているかを「F値」という情報としてカメラに送り、モニタ上で確認できるものが多い。

F値

絞り羽根の開き具合を数値で表したもの。F値の数字を小さくするほど絞りを開ける=明るい。「Focal Ratio(口径比)」のF。F値は、

焦点距離÷レンズの有効口径(光が通る円の直径)=口径比

によって求められるため、焦点距離に対するレンズの直径によってF値をいくつまで開けられるかが決まっている。数値が小さいほど明るい。長ければ口径を太くし、短ければ口径が細くてもF値が小さく明るいとなる。細長いレンズでF値を小さく明るくするのは無理ということ。

f1-f1.4-f2-f2.8-f4-f5.6…と隣り合った数値に変えることで光の量が2倍か半分となり、それぞれ「1段」と表現する。

光が通る穴は円上の多角形であり、まぁ計算上円と見做す。

「前の数値の1.414倍」の中途半端な数値が登場するが、これは円の面積を1段で2倍か半分にすることから、円の面積を求めるならπr(半径)^2だ。半径は「2乗」される。円の面積を倍か半分にしようと、半径rを倍にすれば面積は4倍、半分にすれば面積は1/4となってしまう。この中間を求めるには半径rを√2倍か、√2で割る。円が2倍になるということは、F値は√2倍になるため、1の√2倍=1.4。「ひとよひとよにひとみごろ」で覚えたアレだ。f1=√2の0乗から、f1.4=√2の1乗、f2=√2の2乗、f2.8=√2の3乗…と乗算されていく。大人になってまさかルートを自分の人生で使うことがあるのかと驚いている。

ズームレンズは単焦点レンズよりも複雑であることから、高価な傾向にある。また、望遠側ではF値が暗くなるレンズが多いが、仕組みを理解すると当然である。

焦点距離を動かした上で同じ明るさを保つレンズもあるが、高価。広角側と望遠側で開放F値を保てるレンズを「通しレンズ」と云い、70-200mm f2.8であれば「f2.8通し」と表現する。mm数と同じく、「f4-5.6」と開放F値が2つ表記されている場合は、最も広角側の焦点距離でf4、最も望遠側の焦点距離ではf5.6が開放の限界となり、f4の状態で望遠側にズームするとf5.6まで変わってしまう。映像としてズーム前後で明るさが極端に変わると都合が悪く、この場合はf5.6でズームすることでF値が変わらずに済む。

アイリスリング

レンズ外周にF値が記載されたリングが付いていれば、回転させることでこの羽根を開閉することができる。「絞りリング」、「アイリスリング」と云う。スチル用のレンズはF値を1段ごとに切り替えられるよう、カチカチと段階的に止まるように作られている。

一方、動画ではF値がガクガクと変わると都合が悪いため、動画用のレンズはF値を滑らかに変化できるよう、リングが段階的に止まらず、適度な粘りがあるように作られており、f2.3など中途半端な開き方も可能だ。近年はこのクリックをON/OFFできるレンズも存在する。一般的に動画用レンズは高価になる傾向にあるため、金額面からほとんどのビデオグラファーはスチルレンズを動画に使うことが多く、また同一ショット内でアイリスを変更しない使い方が主流と思う。

絞りの開放と絞り過ぎ

このレンズの羽根をめいっぱい拡げた一番明るい状態のことを、「開放」と呼び、ほとんどのレンズで開放で解像度が甘くなる。レンズは中心が一番性能が良く、レンズの外側を使えば使うほど光が散乱してしまうため。解像度を優先する場合は数段絞る。が、逆に絞るほどに起こる問題もある。

f16、f22など極端に絞ると、こちら側は「回折現象」と云う現象が強く現れ始め解像度が甘くなる。小絞りボケとも云うが、ボケというよりシャープさを欠く。回析自体は絞り羽根の後ろにも光が回り込むことであり常に生じているが、全体の光量が下がることで相対的に回析現象の度合いが大きくなり、目につくようになる。

どこまで許容範囲のレンズなのか、試してから本撮影をする。特に境界線、輪郭がくっきりとした被写体にて視認しやすくなるため、確認でき容認できない場合は絞りを開ける。F8付近がレンズ解像度のスイートスポットとして設計されていることが多く、絞りの最小値、最大値で解像性能が幾分落ちることを認識しておく。もちろん解像度よりも被写界深度を優先すべきと判断した場合は胸を張って開放、最大絞りを使う。

F値を小さくできる=明るいレンズは像のズレのコントロールにコストがかかるため、明るいほど高価な傾向にある。特にズームレンズや望遠レンズなど筒が長いにも関わらず明るいレンズは憧れの的となる。

被写界深度

光の通り道が大きい=F値が小さくなるほど、ピントが合っていると見なされる距離のエリア=「被写界深度(Depth of Field)」が狭くなる。被写界深度が狭いことを「浅い(shallow)」「シャローフォーカス」、広いことを「深い(deep)」「ディープフォーカス」「パンフォーカス(日本語)」と呼ぶ。

ピントが合っていない範囲を「ボケ」と云う。詳細を少し下のフォーカスで後述する。

ピントは合わせなければいけないものでもない。ボケた部分を含んだ画は柔らかさを演出する、背景をぼかして被写体を分離する、ピントが合っている部分のパワーを増す、点の光源を幻想的な玉ボケにする、前景をぼかして遠近感を強調する、被写体をぼかして想像力を掻き立てる、極端なシャローフォーカスでミニチュア感を演出するなど、欠点ではなく表現の幅を広げる技術として確立した。

日本人が研究した、「ボケを演出として捉える考え方」を欧米のカメラ誌でフィーチャーしたことから、英語圏でも「bokeh」のまま通じる。

T値

シネマレンズなどではF値の代わりにT値で表記されているものもある。計算方法はF値と同じだが「transmission(伝達)」のt。

レンズの特性が関連するため事前知識として、レンズについて記載する。詳細は少し下のF値とT値の違いにて後述。

レンズの特性

カメラレンズは光を屈折させる。これにより色や像のズレや歪みが発生する。レンズが1枚だとしても起こる。このレンズが筒の中にあり光が通過することで、筒の内側で光の反射も起こる。クリアな像をセンサーに届けるために、こうした問題をコーティングや特殊ガラスを使用するなど、軽減する工夫がある。

光のズレ、歪みを「収差」と云う。

収差

ザイデルさんが収差は歪曲収差、球面収差、コマ収差、非点収差、色収差に分けられると調べ上げた。そしてこれを無くすことは出来ないが、特定の収差を軽減する形状があることを突き止めた。(詳細が気になる場合は「ザイデル収差」で検索。)全てを一度に解消する万能な形状はないが、この収差を1つずつ異なる形状のレンズを組み合わせて減らすという力技に乗り出したのだ。今日のレンズもこの理論で作られている。もちろんレンズ枚数が増えれば、組み合わせで新たに起こる問題も出るわ出るわ。ガラスを通るほどいくぶん反射によって通過する光は失われるため、不要な反射を抑えるコーティングが必要になったり、「レンズの境界線で起こる問題は境界線を減らせばいいじゃないか」と、レンズを貼り合わせることで境界線を減らしたりと、人類の叡智が詰まっている。元の光がロスなく何%通過するかを「透過率」と云うが、これを稼ぎながら収差を一つずつ解消する、粘り強い研究と技術力の発展により作られているというのがわかる。

フレア、ゴースト

レンズ方向に強い光源が向いた状態を「逆光」と云うが、このときレンズと鏡筒内で反射が起こり、暗部へ光が滲むことでコントラストが失われる。この暗部へ滲む光を「フレア」と云う。

この光に付随し、さらに反射を繰り返したことでフレアは二重、三重に現れる。レンズ面の形状や反射の回数によって、フレアとフレーム中央の延長線上に現れる円形の像を「ゴースト」と云う。

レンズ前面にねじ込んでセットできる日除けがあり、これを「レンズフード」、角型のレンズフードを「マットボックス」と云うが、これを使い強い光を遮ることで抑制できる。一方で抑制せず眩しさの強調や柔らかさ、幻想的な演出としてあえて利用されるケースもある。演出として使えることから、わざわざレンズフレアをシミュレーションするエフェクト、プラグインも開発されているほどである。

フィルムで似た現象として、強い光がフィルムを突き抜け本体に反射し、裏側からも光が当たることで感光しすぎ、白くぼやけることがある。「ハレーション」と云う。デジタルカメラにおいてもこの名称を引き継ぐ慣習があり、レンズフードやマットボックスを「ハレーションを切る」「ハレ切り」と表現する人もいる。仕組みは違うのだが言葉としては十分意味が通じる。

周辺減光(シェーディング)、口径食

周辺の光量が落ちる現象を「周辺減光」「シェーディング」「ヴィネット」と云う。

入射光は絞り羽根の形状、つまりほぼ円形でセンサーに向かうが、入射光に極端に角度が付いていると絞り羽根の前にレンズの最前面で光が遮られ、変形した状態でセンサーに向かう。この場合端が欠けることになるため、光量が落ち影になった部分が暗くなることとなる。「口径食」と云う。日食的な呼び方。

光軸に対する入射光の角度を抑えれば、レンズの径が邪魔にならないため軽減される。つまり開放で起こりやすく、絞ると抑えられる。

ただし入射角によってそもそも光量は変化するため、絞ることで解決できないケースもある。斜めの入射光はより長い距離を進むため、減衰が起こる。この分は防げない。

周辺減光との付き合い方

編集ソフトで周辺を明るくすることでも全然乗り切れる。周辺減光の出方についてはある程度シミュレーションが可能なため、編集ソフトに含まれていることが多いボディとレンズの組み合わせに応じたプリセットを活用すれば楽ができる。何度も言うが一応、電子的に明るくすることはノイズを見やすくする。逆に演出として後処理で周辺減光を追加するケースもある。

F値とT値の違い

レンズは光の通過時に反射が起こると説明したが、つまり枚数やコーティングによって同じ有効口径でも実際にセンサーに届く露出は微妙に異なる場合がある。レンズの枚数は少ないほど、レンズの反射が少ないほど、ロスする光がなく明るくなるはずだ。

F値はこのロスする光量は考慮せず、透過率100%と仮定した理論値で表記されている。同じF値に設定してもレンズ交換により明るさが異なることがある。

T値はロスする光量を加味し、実際にセンサーに届く正確な明るさで表記されている。同じT値表記のレンズであれば製品が異なっても同じ明るさとなる。特にシリーズ展開されているレンズであれば、より焦点距離以外の違いが限りなく少ないように設計される。

つまりT値とF値が同じ数値のレンズを比較すると、F値表記のレンズのほうが僅かに暗い可能性がある。

F値とT値が両方存在する理由は撮影の特性による違いで、映像はカットを繋いで視聴するものであり、レンズを交換したカット間で明るさが異なると都合が悪いため、正確に露出を維持するためT値表記がほとんどとなる。

スチル用レンズと動画用レンズの映りの違い

描写に違いがある。「違い」でありメリットになるかデメリットになるかは場合による。使用者が責任を持って判断する。

スチルは、時間を止めてフレーム全体をじっくりと見ることから全領域での完成度が求められる。収差も周辺減光も起こっては困ることが多い。ボケ味もきれいに出ている必要がある。一方、鏡筒サイズが統一されていなくとも困ることは少ない。1枚ずつが独立した作品であることで、レンズによる映りの違いも意識されにくい。

動画は、フレーム中央やピントの合っている部分の完成度が求められ、これ以外の領域は妥協点が多い。フレームの主張したい一部分のキレが良ければ、中心から外れるほどキレが悪くてもあまり困らない。ピントが合っているところに視線が誘導され、フレーム全体を見る時間が限られているため、問題になることが少ないのだ。ボケた部分もキレが良いとそちらへ意識が流れるため、ボケている領域は描写力を求めないことが多い。一方、鏡筒サイズが統一されていなければ、レンズを交換するたびにセッティングや操作性が変わるため、作品全体でのカメラのオペレーション精度を考えると特にサイズやリングの位置は統一したい。カットによって映りがコロコロ変わっても困る。シネマレンズなどはシリーズ展開されていることが多いのはそのためだ。

さて、操作性のみならず、描写力に関しても向き不向きがあることを解説した。スチルレンズの高い描写力を動画で使うことは、オーバースペックになる可能性と、主役以外の主張を強める可能性があるということだ。だからこそ、描写の甘いオールドレンズであっても、現在でも戦えるフィールドがあるのだ。一方でフレーム全体の描写力を求める瞬間はスチルレンズが火を吹く。求める表現に必要な機材を選定できるようになるため、理論を学ぶのである。

フォーカス

ピントが合うことを「ベストピント」「ピントが合っている」「ピントが来ている」などと呼ぶ。ピントを「ピン」と呼ぶ人も。

「ピントが合う」とは、レンズから入った像がセンサーの位置で”ぼやけていない”と判断される状態であり、「ピントが合っていない」とは、センサーの位置では光が分散し大きくぼやけて見えている状態である。ピントは焦点、フォーカスと呼び方が多様である。「ピントが合っている」ことを「焦点とセンサー位置が合っている」「フォーカスしている」、というのが正確なのだろうが、「フォーカスが合う」も十分通じる。レンズを通った光がセンサーに届く経路を知ることで、フォーカスについての理解が深まる。結像の仕組みを知ろう。

レンズを通過した光は、ある一点に集光する。この集光された範囲が十分に狭ければピントが合っていると見做せる。許容錯乱円と云い、ピクセルのサイズと大きく関係する。

この光が交わるところにセンサーがあれば、ピントが合った像を撮影できるとなる。ぼやけていないと許容できることがピントが合っている状態と考えると、光線の角度が小さい=レンズが小さいほどピントが合いやすいわけだ。

絞りと被写界深度

ベストピントから手前側の範囲を「前側被写界深度」、逆を「後側被写界深度」、このエリアを合わせて「被写界深度」と云う。

上図の通り、レンズへの光の通り道の直径が大きくなるほど焦点が合って見える前後範囲は狭くなり、被写界深度が浅くなる。よって、レンズの径が大きい、F値が小さい、センサーのサイズが大きい、といった条件でピントが合う範囲が前後に狭く、浅く、薄くなる。

また、ピンクの線が光線である。ベストピントを境に奥で反転することが分かる。これがボケの形状がピントを手前に外すか奥に外すかで変わる所以である。特に玉ボケは輪郭を視認しやすいため、「玉ボケは反転することがある」程度に脳裏に入れておこう。

距離と被写界深度

また、フォーカス位置が近くであるほど光線の角度が大きくなり、被写界深度が浅くなりやすく、フォーカス位置が遠くであるほど光線の角度が小さくなり、被写界深度は深くなりやすい。

イメージとしてはレンズから1mと2mの距離は2倍違うが、100mと101mは距離差は同じにも関わらず割合としては少ないため、ピントに与える影響は少なくなる。

結像する位置にセンサーがないとぼやけて見える。センサーを前後に動かすのは大変なので、眼球と同じく、集光する位置をレンズでコントロールする。

レンズには筒内に多ければ10枚以上のレンズが入っている。収差の項で触れたザイデルさんのお話だ。

収差をゼロにはできないということは、フレーム全体でピントが完全に合うということはないことを意味している。あくまで「像がぼやけていないとみなす許容範囲」を大まかにピントが合っていると表現している。像のズレが1ピクセル以内であれば十分だろう。

像が丸ごと拡大されることで望遠レンズほど相対的にボケも大きく見えるようになる。

ティルトシフトレンズ

レンズに関節がついており、移動または角度を少し変えられる機構を持つ。ピントが合う範囲に角度を付けることができるため、下から見上げるビルなど、パースが付いた被写体全体にピントを合わせたり、前景と背景に強く効かせてミニチュア風に加工したりできる。前者のようにピントを後処理で合わせることはできないが、後者のようにピントが合っている画像を後処理でボカすことはできるため、ミニチュア風にするだけなら編集ソフトのエフェクトでもある程度代用可能。

オートフォーカス

オートフォーカスの内、「パッシブ方式」はフォーカスを前後に動かす中で周辺のピクセルを比較して、ぼやけが極端に少ない場合はピントが合っているという判断で止まる。そのため、コントラストの低い凹凸のない一色の壁などには延々とフォーカスが動き続けることもある。

他に入射光を2つの画像に分け、結像し比較することでピントの方向と量を判断する「位相差AF」、レーダーを照射し被写体までの距離そのものを検出する「アクティブ方式」などある。それぞれ前者が低照度に弱い、後者が遮蔽物に弱いとデメリットもあるが、筆者が2025年現在、映像撮影ではマニュアルフォーカスがメインという思想を持っているため、あまり言及しない。

ボケの形状

丸いレンズを通った光は円形にボケるが、直線形の絞り羽根の枚数が5枚と少なく五角形に切り取られた場合は、ボケも五角形となる。これはアイリスの形状による影響である。ピントがズレている状態というのは、像が四方にぼやけて滲んだ状態である。この形状はセンサーに当たる光の「面の形状」に由来することとなる。特に点の光源が「玉ボケ」として現れる。

キラキラと美しく幻想的な効果があるため、きれいな円形のボケが欲しい場合は、アイリスがきれいな円形である必要がある。絞り羽根の形状がカーブになっていたり、枚数が多かったりすれば円に近づく。レンズ選びにはこのボケの形を重視する方もいる。

この原理を応用すれば、レンズ前に設置したハート型にくり抜いた紙越しに光を取り込めば、ハート型の玉ボケが得られる。センサーに近い位置に型を置くほど、より形状が鮮明になるが、物理的にレンズ前面に型を置くほうが難易度が低い。様々な玉ボケを生むために後述する「ボケフィルター」というものもある。

そしてフレーム端ほど前述した口径食が原因で、またケラレもセンサーに当たる光の形状に影響することから、光源に対して斜めにレンズを構えることが原因で、それぞれ玉ボケがレモン型になりやすい。

また、ボケの形状としてピント位置を基準に奥側は絞り羽根、ボケフィルターなど遮った光の断面通りに滲むが、手前側の物体は上下反転に滲む。玉ボケをコントロールする際に知っておくと、ピントを手前側に外す場合はフィルターの絵柄の下を下方向に、ピントを奥側に外す場合はフィルターを回転させ絵柄の下を上方向にすればいい。

オールドレンズと特徴的なボケ

例えばソ連製のHelios-44というレンズ、バリエーションがいくつかあるが、「Twisty Bokeh」などと呼ばれるぐるぐるのボケが特徴的だ。ぐるぐると言われるが実際に回転しているわけではなく、中心から離れるほど潰れる収差がロール回転のブレに見えなくもないことから、ぐるぐる。オールドレンズだが製造本数はべらぼうに多く、現在もそこまで高価ではない。1.5~3万円ほどだ。当時はぐるぐるのボケを特徴としようとしたわけではなく、レンズの収差を解消することが難しかっただけのようだが。

同じくロシア製のINDUSTAR-61 L/Z 50mm F2.8は絞り羽根が特徴的な形をしており、F5.6付近で六芒星の玉ボケを生む。

玉ボケの輪郭にくっきりとした縁が出る「バブルボケ」を生むレンズなど、収差を取り除く技術力によって、現代でもオールドレンズには演出上使う理由が見つかるレンズが多くあるようだ。

フォーカスリング

このピントの合うフォーカス距離を前後に調節するのがフォーカスリング。(スチル出身であれば「ヘリコイド」と呼ぶ先輩もいる。)フォーカス距離を調節することを「ピントを送る」や「フォーカシング」と云う。この回転方向…時計回り、反時計回りどちらに回せばピントを手前側にするかは統一されておらず、レンズのメーカーにより異なり未だに我々を混乱に陥れる。現場でミスをしないよう、手持ちのレンズはフォーカスの素振りをして体で覚えて撮影に臨む。

また、フォーカスを移動する仕組みとしてレンズ群全体が移動する「全群繰り出し」、レンズの前群が移動する「フロントフォーカス」、後群が移動する「リアフォーカス」、中間部分のレンズ群が移動する「インナーフォーカス」などがある。

全群繰り出しとフロントフォーカスは、フォーカスに合わせてレンズ前面が伸び縮みする。結像位置が変わるがセンサーを移動することは困難なため、レンズ前面がセンサー位置に結像するよう動く。

一般的にスチルレンズは素早いフォーカシングが必要と考えられ、ピントを合わせられる一番手前の「最短焦点距離」から一番奥の「無限遠」まで狭ければ90°=1/4回転ほどである。オートフォーカス用のレンズはマニュアルフォーカス用のレンズよりもリングが回転しない傾向にある。

フォーカスリングの可動域が狭いということは、精度の高いコントロールが難しくなる。一瞬を捉えるスチルでは問題にならないが、動画ではRec中にピントを合わせ続ける必要がある。

このため、シネマレンズなど動画用のレンズはフォーカスリングの可動域が広い。180°や、300°回転するものもあり、浅い被写界深度でも微細なフォーカスコントロールがしやすい。さらに適度な粘りがあり滑らかに回転できるように作られている。

わざわざ風の強い日に撮影したサンプルを用意した。手で最大回転を一度では回しきれない様子と、フォーカスリングを大きく回転し、手前、中間、奥へフォーカシングした。険しい顔のおじさんが入り込んでいるがあくまでフォーカスリングの可動範囲に注目したい。

フォーカスブリージング

レンズが複雑な仕組みであることは理解いただけたであろう。レンズの選び方、扱い方で何を基準に考えればよいのかがより明確になったのではないだろうか。

この複雑さがときにスキルで吸収しきれない場合もある。例えば、フォーカス位置を動かす際に光学系も変化するため、画角が変化してしまう「フォーカスブリージング」と云う現象も発生する場合がある。

ピントを送ることで画角が変わる様が呼吸のように見えることからそう呼ばれている。画角が意図せず変化することを許容するか嫌うか。判断はそれぞれで。

スチルはブリージングによる制約はほぼ無いため、スチル用レンズではあまりブリージングが抑制されていないことが多い。動画ではブリージングが起こっている様も記録してしまうため、動画用レンズはフォーカスブリージングを抑える機構になっていることが増える。

高倍率のズームレンズで顕著に現れる傾向にある。全群繰り出しとフロントフォーカスの場合もフォーカスに合わせてレンズが伸び縮みする関係で結像する位置が前後にズレるためブリージングが起こりやすい。上記の例ではレンズがSP AF90mm F/2.8 Di MACRO 1:1、全群繰り出し方式だ。

レンズによってこのフォーカスブリージングを抑える設計があったり、ボディ側で補正する機能を有する機種があったりする。後者のように特に光学補正でなく電子補正であれば画質の劣化が起こる。

余談:カメラレンズの中身(レンズ)

予備知識として、読み飛ばし候補の項目であることを先に伝えておく。

カメラレンズの設計には片面か両面がでっぱっている凸レンズ、へこんでいる凹レンズがあり、6種類の球面レンズを組み合わせる。両凸、両凹、平凸、平凹、凸メニスカス、凹メニスカスとある。名前は覚えなくて良い。こんな形のレンズが組み合わさってたら、そりゃ反射と収差が起こるよなぁでOK。

凸面を通過した光は集光され(縮小)、凹面を通過した光は外側に向かう(拡大)。

さらに現在は型加工など成形技術の発展により、球面ではなく複雑な形状をした自由曲面レンズで収差を軽減するアプローチもある。

余談:カメラレンズの群と枚

くっつけたレンズを1グループとして、「群」と呼んでいる。そのため、カメラレンズは「11群17枚」といった表記になる。この場合は全部で17枚のレンズを使い、11グループにわけられるような組み合わせで貼り合わせられているレンズがいくつかあるということ。分かりづらいのは、貼り合わせられず独立したレンズも1グループと数える。「1群1枚」があり得るということだ。群は1パーツ、1グループ、と覚えるといいか。

これら複数のレンズを複雑に移動させることで、常にセンサー位置に集光できるような設計となっている。恐ろしいまでの技術力である。

アナモルフィックレンズ:本筋

横方向に圧縮する特殊な円柱のレンズを使って、センサーのアスペクト比以上のワイドな映像を撮影するアナモルフィックレンズ。記録される映像は縦長になるため、編集時に横に引き伸ばす。レンズのmm数よりも横にのみ広角に撮影できる。

スクイーズとデスクイーズ

横方向に押しつぶす(squeeze)倍率を「スクイーズ比」「スクイーズ係数」「スクイーズファクター」と云い、1.3倍、1.5倍、1.8倍、2.0倍などバリエーションがある。このレンズのスクイーズ係数分、編集ソフトで「デスクイーズ」することで正常な比率に戻してやる。例えば2倍のアナモルフィックレンズで撮影した映像は、横方向のスケールのみを200%にする。または縦方向のスケールのみを50%にする。

50mmの2倍アナモルフィックレンズであれば、理論上は縦は50mmのまま、横が25mmの視野になる。ただ実際には縦も多少ワイドになるレンズもあり、何を基準にしたmm数表記なのか混乱する。

撮影時のモニタリングには横が潰れた=縦に伸びた映像のままでは都合が悪いため、ボディのモニタ上で確認するアスペクト比を選択できるデスクイーズ機能を持ったカメラや、外部ディスプレイがある。あくまでモニタに表示する映像をデスクイーズし、記録される映像データは横が潰れたまま。アナモルフィックレンズを使用するなら、ほぼ必須だろう。なければモニタを斜め上下から見て悪あがきも出来ないことはない。

センサーのアスペクト比とレンズのスクイーズ係数の組み合わせ次第で、希望とぴったりの撮影サイズが選択できないことが多いだろう。アナモルフィックレンズを使用するということは、「横を最大限に使用」したいかと思うので、縦をトリミングするケースが多いと想像する。どこまでトリミング予定なのか、撮影時にもモニタリングするため、フレームガイドを活用しよう。

アナモルフィックレンズの金額感と選択肢

アナモルフィックレンズと言えば通常シネマカメラ用の数ひゃく万円を超える巨大なレンズ以外に選択肢すらなかった。ここへ近年、性能は抑え気味ではあるものの”比較的安価”なアナモルフィックレンズが切り込んできた。特に中国で開発が盛ん。

中国のSIRUIというメーカーからはフルフレーム、APS-C、m4/3向けに1本6~20万円以内で展開している。

中国のSLR MagicからはフルフレームでPLマウント向けに1.33倍の35mm T2.4/50mm T2.8/70mm T4が各12万円程。さらにフルフレームでEFマウント向けに2倍の70mm T4が8万円程。m4/3向けに35mm T2.4/50mm T2.8/70mm T4が各7~8万円程。

中国のVAZENからはm4/3向けに1.8倍の28mm T2.2/40mm T2/65mm T2が各50万円程。

中国のViltroxからはフルフレームでPLマウント向けに1.33倍の25mm/35mm/50mm/75mm/100mm 全てT2が各55万円~70万円程。

中国のLaowaからはアナモルフィックのズームレンズも出てきた。
スーパー35mmでPL/EFマウント向けに1.5倍のNanomorphシリーズが27mmのみT2.8/35mm ここから全てT2.4/50mm/65mm/80mmが20万円程、
スーパー35mmでPL/EFマウント向けに2倍のProteusシリーズが28mm/35mm/45mm/60mm/85mm/100mm 全てT2が各95万円程、
スーパー35mmでPL/EFマウント向けに1.5倍のNanomorph Zoomシリーズが28-55mm/50-100mm どちらもT2.9が各60万円程、
フルフレームでPL/EFマウント向けに1.5倍のNanomorphシリーズが32mm/42mm/55mm/85mm 全てT2.9が30万円程。

中国のBlazerからはフルフレームでPL/EFマウント向けに1.8倍のGreat Joyシリーズは35mm/50mm/85mm 全てT2.9が各30万円程。筆者はこれに飛びついた。35mmと85mmを保有している。
さらにスーパー35mmでEマウント向けに1.33倍のApexシリーズは35mm/50mmが各14万円程、
フルフレームでPL/EFマウント向けに1.5倍のRemusシリーズは33mm T1.8/35mm T1.6/45mm T2/50mm T2/65mm T2/85mm T2.8/100mm T2.8/125mm T4が各15万円前後、

フルフレームでPL/EFマウント向けに2倍のCatoシリーズが40mm T2/55mm T2/85mm T2.8/125mm T4が各20万円程。

アメリカのAtlas LensからはOrionシリーズとしてスーパー35mmでPL/EFマウント向けに2倍の18mm/32mm/40mm/50mm/65mm/80mm/100mm ここまでT2/135mm T2.2が各140万円程。200mm T3.2が230万円程。
Orionシリーズ向けのAtlas LF Extenderを組み合わせるとフルフレーム28万円程。
MercuryシリーズとしてフルフレームでPLマウント向けに1.5倍の36mm/42mm/54mm/72mm/95mm/138mm 全てT2が各120万円程。

Great Joyではボディマウントの微妙な焦点距離の調整が効くように、マウント部に挟むめちゃくちゃ薄っすいワッシャー(シム)が付属していた。

その他、後述する球面レンズ前面に組み合わせる、アナモルフィック化アダプターもある。

アナモルフィックレンズの妥協案の難しさ

シネマスコープを目指すのであれば、横長の映像にするだけでもいい。球面レンズで撮影した映像の上下をトリミングしてもいいが、アナモルフィックレンズを使えばセンサー面積を有効に使える。また、16:9のセンサーであれば1.33倍のアナモルフィックレンズでシネマスコープの画面比率にはなる。しかし、映りが違う。下に列挙するアナモルフィックレンズの特性は圧縮率が高いほど起こりやすい現象であるため、「横長ならいい」ではなく、これらの特性に魅力を感じてアナモルフィックレンズを導入するのであれば、圧縮率の高いアナモルフィックレンズを選択するのが懸命である。

アナモルフィックレンズの特性

特殊なレンズを使うため、その他いくつか副産物的な特性がある。これが魅力だ。

樽型の歪み

樽型に像が歪む歪曲収差が起こりやすい。基本歪む。樽型の歪みを「バレル歪み」と云う。

水平に伸びるフレア

強い光源により発生する乱反射、フレア。形や色、度合いはレンズによりまちまちだが、横に線上のフレアが出ることがある。「ストリーク」と云う。反射を防止するコーティングが未熟だった頃の名残で、アナモっぽいからとわざと残すことがある。

横だけに傾斜のある円柱のレンズが使われるため、反射が横に起きる。現在は設計である程度コントロールが効くようで、同じレンズでもフレア、ストリークの色を購入時に選べる場合がある。

SIRUIのアナモルフィックレンズはこのストリークが強烈に出るため好みが分かれる。強い光源がある場合、SF映画に多く見られるカッコいいストリークを武器にできる。

縦に楕円形のボケ

ピントを外した部分が縦長に歪む。玉ボケも。これがアナモルフィックレンズでないと表現ができない強烈な個性である。「オーバルボケ」と云う。上下左右に丸く滲むのではなく、1方向に流れるように滲むことで、「絵画のよう」と称されるボケを描写する。玉ボケはこの特徴を視認しやすく、イルミネーションや交通量の多い夜景を背景にすると印象的になる。

レンズの特性上、フォーカス位置を基準に手前と奥で圧縮率が変わるため、ピントの合った被写体をスクイーズ係数通り横に伸ばして戻してやっても、大きく縦に滲んだボケ、玉ボケは円に戻りきらないわけだ。

合成をする場合、障害となる。通常、編集ソフトはアナモルフィックレンズを想定しておらず、ブラーーなどボカシを加える場合はフォーカスの深度に合わせて縦長にぼかさないとなじまないため一手間かかる。アスペクト比を調整できるエフェクトやプラグインが便利だ。

いずれにせよ、編集はあくまで「後処理」であり、ボケていないものをぼかすことはできるが、既にボケたものをより縦長にぼかすことができない点だけ認識しておこう。

これらは、今では欠点ではなくアナモルフィックの味と捉えていいだろう。しかし、明確な欠点もときに出くわす。

アナモルフィックレンズの味とは言えない欠点

魅力を消し飛ばすほどではないが欠点を挙げてみる。

シャープさを欠く

解像度が甘いことが多い。欠点にねじ込んだが、個人的には味と捉えている。

でかい

サイズが大きい。ただしSIRUIのは手頃サイズ。

重い

おんもい。SIRUIのは特別軽い。

スクイーズ係数揺れ問題

複雑な機構であることから、フォーカス距離によってスクイーズ係数が変わることがある(筆者が映画用のアナモルフィックを知らないため正確性には欠ける表現だが、実体験を伴う情報として話半分程度に)。ブリージングに似ている。(縦横の比率が違う状態でブリージングが起こるから、スクイーズ係数が縦横バラバラに変わることになるの?どうなの?)

スクイーズ係数揺れの起こらないアナモルフィックレンズを使用するか、フォーカシングを諦めるか、編集時にピントを送っている箇所において細かなフレーム単位でデスクイーズすることとなる。

アナモルフィックフィルター/アダプター

レンズ前面にセットすることで通常のレンズをアナモルフィック化することができる。比較的安価なものが多く、その分明るさや周辺減光、倍率面で劣る。フィルターとして考えたら重量はある。ただ手軽なため検討の余地はある。

ISO、シャッタースピード、絞りのまとめ

ここまでで明るさを調整する設定である3つの要素、ISO、シャッタースピード、絞りを理解した。場合によって優先順位が変わるということ、シャッタースピードと絞りは見た目の影響が大きいことから、画の明るさのみを増減するISOは一番最後に考えることが多くなることだろう。

考え方の一つとしては、フレームレートの制限によってシャッタースピードは自ずとfps以上となりカスタマイズの余地が少ないため、これを一番初めに考え、表現したい文脈によって

  1. どれだけのブレが必要かを決め(シャッタースピード)
  2. 被写界深度を浅くするべきか否かを決め(絞り)
  3. これらを適正な明るさに合わせる(ISO)

これが丸いのではないだろうか。

この順でセッティングした場合に、ISOが高すぎる場合は減光用のレンズフィルターやカーテンを閉めるなど光量を落とす、ISOが低すぎる場合は照明を使うということだ。

レンズの機能を拡張するツールもあり、続いてはレンズ用のアクセサリーへ。

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