架空の門番デバイスのCMを作りました。
悲しい過去を感じさせる一方で、その右手には正義の灯火が火照っている。
セキュリティは「守る」から「攻める」時代へ
家族団らんの幸せな時間。
薄暗くなった住宅街に温もりの笑い声が、灯るころ。
「安全に暮らす」という、あたりまえではない日常が常識となった日本。
その影には人々の生活を守る存在として、各家庭に最低1台配備される門番デバイスだ。
藻津原洗脳社が開発した「爆!キャタピラー1号」は、窃盗や強盗といった脅威から住人を守るセキュリティとしては、画期的だった。
センサーによる監視システムに加え、自走し、力に対しても一定の反撃を試みる。
施錠が守りのセキュリティだとすれば、言わば攻めのセキュリティを実現した。
キャタピラが回転しない時間を充電に回すことで、有線による充電は実質不要で、高寿命・高メンテナンス性が受けた。
おまけに一般的な住居への攻撃は比較的緩やかだ。
戦車での爆撃に対応する必要はなく、最低限の開発コストを突き詰めることで爆発的に普及した。
それから4年。
日本で起こる犯罪は激減し、事件らしい事件が日常とはどこか別の次元のものとして忘れ去られようとしていた。
侵入者には明確に脅威であると理解させるため、国の認可を受け、導火線ゼロ距離のダイナマイトがむき出しとなっていた。
誰しもが想像していなかったことだが、これが仇となった。
幸せなはずの瞬間に、それは起こった
ある夜、仕事帰りの父は娘の誕生日を祝うため玄関先に立っていた。
その手にはケーキ、そして線香花火型のろうそくだ。
父の帰りを母と娘は毎日欠かさず出迎えた。
その日は玄関の扉を母が開け、父は開封状態のケーキを子供に差し出す算段であった。
そして、ろうそくに火を灯そうとしたとき、父は気づく。
着火するための道具を持ち合わせていなかったのだ。
父は煙草を吸わず、火の元も見当たらない。
ふと、爆!キャタピラー1号のダイナマイトが目に入った。
その後は想像通り、玄関は跡形もなく吹き飛び、飛び散った門が隣の家のキャタピラーに突き刺さった衝撃で誘爆、これを繰り返すことで町内53戸の玄関が消し飛ぶ大惨事となった。
ニュースでも連日、「藻津原洗脳53連鎖事件」として大々的に取り上げられた。
悲しみを乗り越えたとき、「それ」は起動する
平和ボケが生んだ悲しい事件に藻津原洗脳社は苦悩した。
過保護は人の成長を阻んでしまう、そのジレンマに答えが出せず、自らも爆裂しようと考えていた社長の元に、ある男が訪ねてくる。
父だ。父はジムに通っていたため、奇跡的にもまつ毛が焼け落ちただけで一命をとりとめていたのだ。
同じ悲劇を繰り返さないため、「1号みたいな事故はもう起こさせない」と、自ら開発チームへ志願してきた。
家庭から1号は消えたが、ふつふつと湧き上がる思いは、一人の男の心でかろうじてくすぶり続けていた。
消費者としての目線を活かし、「門番」「火」「キャタピラ」のコンセプトは変えずに不具合らしい不具合を全て潰し、ついに2号が完成した。
ウォーターサーバーとしての機能も取り入れ、家の中のスペースを占拠せず、ボトルセット時に姿勢が低くなることで、力の弱い消費者へも寄り添った。
さらにおなか側が宅配ボックスとなっており、メイン機能のセキュリティとうまく調和した。
背中側には生ゴミボックスがあり、土に分解しつつエネルギーを取り出し、バッテリーも長寿命に。
※その間も父はジム通いを欠かさず、その体は2倍ほどになっていた。
筋肉量が2倍、開発機も2号ということで、2×2=「5号」という名称案もあったが、これは父が学がないためで敢え無く却下されている。
正義の船、筋肉という追い風を受け生ゴミの如く爆裂する
この間、街には犯罪がはびこり、廃墟とそれ以外の見分けがつかなくなっていた。
初期出荷分の222台が2分で売り切れ、悲しい過去と強い思いが生んだ次世代の門番デバイス「滅!キャタピラー2号」がついに起動する。
住人を見守る目には、高性能カメラとエメラルドレンズを使用することで盗人の射幸心を煽る。
犯罪と悲しみを滅するという意味で冠した名を持つ門番デバイス、「滅!キャタピラー2号」。合言葉は「門Burn」。その右手には正義の灯火が火照っている。
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