架空の出張万引きGメンのCMを作りました。
まじ許すまじ
盗美(ぬすみ)が万引きに手を染めたのは、転校してまもなくだった。
「東京モン」としてクラスに馴染めずにいたところ、二人の生徒が近づく。
女生徒「盗美ちゃん、でいいんだよね?」
盗美「あ…うん、…名前覚えてくれたんだ、えっと、悪亜(あくあ)ちゃん。」
悪亜「そう、こっちは衣罪(いつみ)だよ。」
衣罪「よろしくね。」
盗美「あ…よろしく、衣罪ちゃん。」
悪亜「あのね、盗美ちゃん、転校したてでいつも一人だから、うちらと友達にならないかなって。」
盗美「あ…もちろん、もちろんだよ!」
衣罪「放課後に一緒にスーパーに寄らない?」
盗美「うん!」
-放課後-
悪亜「それでね、お願いがあるんだ。」
衣罪「ガムを持ってこれたら、うちらと友達になってもいいよ。」
盗美「持ってこれたら?」
悪亜「ここお菓子コーナーの角が影になっててさ、周りから見えづらいんだ。」
盗美「えっそれって…。」
衣罪「盗美ちゃんってさ、少しおどおどしてるじゃない?これくらいの勇気が出せたら、友達増えると思うんだ。」
盗美「でも…。」
悪亜「まぁ、そうだよね、ごめんごめん、嫌だよね。無理しろって言ってるわけじゃないしさ。」
衣罪「うーん、しょうがないね。わかった。じゃあね。」
悪亜「じゃあうちらはたこ焼き食べに行こっか。」
盗美「えっ…あの、私は…?」
悪亜「えっ?うちらのお願い聞いてくれないんでしょ?そうなるとまだ友達じゃないからさ…。」
衣罪「友達のお願いには応えたいよね。でも盗美はそうじゃないみたいだから。」
盗美「ま、待って。わ、私、行って、くるから。少しだけここで、待ってて」
数分後、青い顔で店から出てくる盗美。
二人の顔を見ると、ホッとしたのか笑顔を見せる。
そこに―。
衣罪「ヤバッ。」
悪亜「行こ。」
慌てて知らんぷりで歩き出す二人。
盗美が追いかけようとしたところ、腕を掴まれ振り返る。
「ちょっと君。」
そこには警察官の男性が立っていた。
盗美「あ…。」
前を見ると二人はもう遠ざかっていた。
その男は猪突 正義(ちょとつ まさよし)巡査と名乗った。
猪突巡査「大丈夫、見てたよ。店に入る前から見てたんだ。あの二人に命令されたんだろ?」
猪突は見抜いていた。
その上で、葛藤したのだ。
ここで捕まえるのは簡単だ。親を呼んで、学校にも伝えても職務を全うすることに変わりはない。
だが猪突は、罰して終わりではなく、事情を鑑み、盗美が誤った道に進まないよう、さらに、思春期に必要以上の制裁を受けてしまうことを避けるという選択をする。
ガムを受け取り、店内に向かう。棚から手に取ったように見せ、会計を済ませてきた。
盗美は悪亜と衣罪からは距離を置いた。
この経験から、盗美は今、出張万引きGメンとして働いているが、多くの幼い犯人が店を出る前に声をかけ、問題となる前に説得をする方針を掲げている。
そんな折、ある店で恩人である猪突を見かける。今日も逞しい制服姿はあの頃と変わっていない。
盗美は自身の成長した姿を見せられること、また、改めてお礼を伝えようと追いかけた。
だが、猪突がポケットに手を入れる前には確実に持っていた商品が、その手から消えていた。
見間違いではない。
一瞬、頭が真っ白になったが、その間に猪突は店から出てしまった。
万引き成立である。
いま、盗美の心を支配しているのは、悲しみでも、動揺でもない。
怒りだった。
正義の姿そのものであった、恩人が。
生きる道を示してくれた、あの人が。
万引きGメンとしてのやりがいを見つけるきっかけだった、あの男が。
現在の盗美という人格形成に多大なる影響を与えた、あいつが。
どうして…どうして!
盗美はたまたま持っていたひょっとこのマスクで、盗美という人格を覆い隠した。
心に蓋をするように…。
私は盗美ではない。そうだ、今だけは、別人として、後ずさりそうな自分を抑え込むんだ。
マスクに跳ね返る熱い息が、溢れる涙を吹き飛ばす。
肩で風を裂き、力強い歩幅で猪突の腕を掴み、告げる…!
盗美「動くな、マイケルだ!なぜ止めたかはわかっているな!許すまじ!許すまじ!」
ここに、万引きGメンである、コードネーム:許すまじマイケルが誕生した。



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