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カメラワーク
カメラは、観客の目そのものである。見せたいものがあれば、もしくは見たいものを見たい順番で見ることができれば、ストレスなく、「カメラで撮影された映像だ」と意識させずに没入させることができる。見せたくないものがあれば、徹底的に隠すことだってできる。
あなたはカメラを構えるのではない。観客を連れ回すのだ。カメラワークとは極上のエスコートなのである。
視点を切り替えることで「見せたいものを見せたい順番で見せる」「見せたいものに集中させる」「誇張させる」ことができる。
カット割;撮影ワークフローにて後述するが、映像作品はシーンの集まりである。シーンはカットの集まりである。カットはショットを切り刻んだものであり、ショットはRec開始からRec終了までの一度に撮影した1つのファイルのことだ。
つまり前後関係があり、1ショットでのカメラワークという技法のみを覚えるだけではカットを繋げることができないため、この記事においては「カット割で繋ぐ1つのパーツとしてのカメラワーク」という意識が必要と考える。よってカメラワーク単体の紹介はするが、事前知識として一連のシーンにおいてカメラワークがどう活きていくかを初めに示す。
カメラワーク使用例
視点切り替えの効果を伝えるため、例を用意した。こんなシーンだ。
↓ト書き脚本
・待ち合わせ場所にて待つ人物A(ずんだもん)の元へ人物B(東北ずん子)がやってくる
・跳ねながら大きく手を降るずんだもん。東北ずん子への愛情が見て取れる。
・ずん子がずんだもんの前に到着すると、ずんだもんが抱きつこうと両手を広げ飛び出す。
・ずん子はすかさず右手を振りかぶり、ずんだもんの頬めがけ平手打ちをかます。
・ずんだもんは壁に向かい跳ね飛ばされる。
・衝撃で壁はひび割れ、壁に張り付いたずんだもんが欠片から遅れて地面に倒れ込む。
・横たわるずんだもんを見つめながら小さくガッツポーズをするずん子。
例えばこのような一連のアクションを表現する場合、全体像はこうだ。
例1:アクション全体像
カメラワーク(と編集)によって下のようにできる。
例2:カメラワークの一例
上記は例1と全く同じタイミング、時間でアクションを行い、カメラの位置、カメラの角度、カメラの動きのみを変更したが、人物のディテールが伝わりやすく、行われているアクションが誇張され整理できたのではないだろうか。
比較のためにCGキャラクターを用いたが、現実的にはカメラのセッティングごとにアクションを区切ることとなる。
※演出面としては抱きつく高揚感としてハートを追加したり、衝撃の誇張としてインパクトの瞬間をスローにしたり、または壁際の砂煙など考えられるが、編集面はこの記事群では取り上げない予定である。この頁ではカメラの位置、角度、動きについて取り上げ、フレーミングやカット割については次の記事、さらにその次の記事へと分ける。
「カメラワーク」という言葉はごく局地的に「カット割」と混同されることがあるが、カメラの動きを含め、カメラの位置、カメラの角度、フレーム内での被写体の配置などなどといった撮影技法の総称であり、この素材をどの順番やタイミングで繋げるかといった撮影計画と編集技法をカット割と呼ぶ。
余談:ワンカット映像
カットを切り替えず長時間Recした映像を「長回し」と云う。長回しは別名「ワンカット映像」という言い方を聞いたことがあるだろうか。これは完成品としての俗称で、素材自体は「ワンショット」映像だ。Rec開始~終了までの1ショット、つまりあくまで1つの動画素材のことである。長く撮影しただけのカットの一つではなく、一つのショットでシーンが丸ごと完結する場合、高難度となりワンカット映像と呼ばれ賞賛の対象になる。映画「ヴィクトリア」は140分間のワンショット撮影として有名だ。邦画では「カメラを止めるな!」が30分越えのワンショットシーンがある。
時に、画面手前を横切るオブジェクトをトランジションとするなどして切れ目を意識させず、複数ショットを繋げる手法も存在する。映画では「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」や「1917 命をかけた伝令」などがある。編集によってワンショットに見せているわけだ。
ワンショット映像の意義
いずれも、時間が飛ぶことがなく、リアルタイムで進行を体験でき、且つその場にいるような没入感を目指して選択される。時間の計測、入念なリハーサル、長いアクションやセリフを覚えなくてはならず、さらに演者とクルーの息が合わない場合地獄のリテイクが待っている。場合によっては演出上の汚れや足跡などを元に戻すだけでも相当な時間と労力がかかる。それだけにワンショット映像でしか表現できないこともある。短時間から始めたり、デジタル合成の使用を許容したり、ハードルを落としてぜひチャレンジしてみよう。
カットで繋いで良いのであれば、このハードルに限れば大幅な難易度低下を見込める。ショットをいかに積み上げるか。どの順番で、どの長さで切り替え、どう組み合わせるか。正しいストーリーテリングを実現するために、どのようなカメラオペレーションが研究されてきたのか、見ていこう。
カメラの操作の種類
映像の視点を動かすということは、レンズそのものが動くということ。カメラのオペレーションを大別すると移動と回転だ。さらに分解すると、このようになる。
カメラの操作
- 手で持って移動
- 手で持って回転
雲台の操作
- パン棒を持って雲台を水平に回転
- パン棒を持って雲台を垂直に回転
三脚の操作
- 高さを変える
- 裏技として前述した疑似ジブ運動(ジブの項)
特機(特殊機材)の操作
- ジンバルで回転ブレを抑える
- ジンバルで滑らかに回転(ロール回転含む)
- スライダー/レールで滑らかなスライド移動
- ジブ/ブームでクレーンのような動き
- クレーンで吊って空間を自在に移動
- ドローンで空間を自在に移動
- ペデスタルで上下のスライド移動
これらの操作を通して視点に動きを加えることができる。
この内、後半のクレーン、ペデスタルは非常に高価なため専門技師向けではない本記事では言及しない。またドローンは移動の制限が少なくなるだけでワークの意味自体は本記事の技術の組み合わせであり、詳細の言及はしない。
さて、詳しく見ていこう。
固定/フィックス(Static/Fix)
カメラを動かさない。一番落ち着いたカメラワーク。あくまでカメラが固定されているかどうかであり被写体の動きは関係ない。監視カメラやドライブレコーダーの映像がイメージしやすいか。
遠近の物体による視差効果による奥行きよりもフレーム内で動くものだけに意識を集中させたい場合や、会話シーンで内容に集中させたい場合など、「そのショットで伝えたい最重要項目に対し視点の動きがノイズとなる」判断をした場合、カメラを固定して撮影する。映像では画、音、アクション、全てに意味が生じる。”生まれてしまう”。カメラのムーブによる意図に観客の意識を割いていいのであれば、初めて動かす。カメラが動くと簡単にリッチなシネマライク、シネマフレーバーな映像が手に入るため、SNS動画では特に好まれるようだ。スマホが軽いというのも一役買っているだろう。ただし、カメラを動かすには意図が必要とさえ唱える派閥がある。筆者はその考えに同調はするものの、縛られるだけではなくインスタントに特に考えず動かしてもいいと考えている。あくまで先人たちが積み上げた理論を知った上で選択肢を増やすという観点で、覚えてはおきたいということだ。特にCM系のプロモーション映像においては、映画やドラマと違い、カメラのムーブが醸し出すリッチ感が適している場合が多い。照明、構図、ワークを磨けばシネマライク、シネマフレーバーもシネマティックになり得る。非常に面白い映像学である。
大半の映像にはカットがある。カットを繋いで物語が進む。コミックやマンガが証明している通り、演出すらなしのカメラワーク全てフィックスでも映像作品は作れる。
実はカメラを動かすというのはとても難しい。始点と終点2つの構図でフレーミングを考慮しなくてはならず、フレーミングがわからないままワークすると、見せたいものを見失ってしまう。観客が一瞬一瞬で解釈できる情報には限りがあり、さらに動きの軌跡と、滑らかさはどうするか、これらが絡み合うからである。そのため、この記事をフレーミングまで読み進めることで、よりこれらのカメラワークが何と何を繋ぐものなのか、なぜカメラを動かす必要がないのか、あるのか、検討しやすくなることを期待する。
フィックスショットでコントロールできるのは、被写体のアクションだけではない。時間軸がある。テンポよくカット編集すれば、リズムが生まれる。目を背けたくなるような画を長時間切り替えず見せることで十分、不安感、恐怖感を与えることができる。見えそうで見えない画面外でストーリーが展開することでも、観客の関心を掴み続けることができる。
カメラワークを考えるとき、全てのシーンをフィックスに置き換えた場合に成り立つ物語かどうか、判断基準としても良いと考える。フィックスで表現できないものがワークで実現できるなら、動かそう。やみくもにカメラをぶん回した素材は編集で苦労することとなる。いや、苦労したからこそフィックスの大切さに気づくのであろう。永遠のジレンマである。
愚直に全編フィックスにするも、動きのあるカットが続いた後にフィックスショットを組み込むことで緩急を狙うも、自在に使いこなすことができるカメラワークのうちの一つだ。そのショットがフィックスである必要性を説明できるようなら、カメラワークについて理解してきたと考えていいだろう。
フィックスで想定されるデメリットと解決策
建物など動きのないものをフィックス撮影すると、フリーズした画像に見え写真と見分けがつかない場合がある。これを避ける必要がある場合、大まかに3つ解決策を提示する。
解決策1:ノイズ
実際は動画は1フレームごとに異なる細かな粒子(ノイズ)が乗るため、よく見れば写真と動画の見分けが付くが、デジタルカメラの進歩によりノイズも減ってきた。フリーズフレームに見えて困る場合は編集でグレインノイズを乗せることで「動画感」を付け足すことができ、写真にも応用できる。
解決策2:動くものをフレーム内に入れる。
揺れもの(無風状態でない旗、葉、水面など)、アクションのある生物といった、フレーム内に動く物体を一部でも入れる。わずか一部でも動いていれば途端に画面全体が静止画ではないと錯覚する。
解決策3:光を動かす
画面外の照明に変化を加えることで、光と影の当たる方向、強さ、柔らかさ、形に変化を与える。時間経過による太陽光や雲の動きもコントロールが難しいものの活用できる。解決策2と組み合わせて考えるとフレーム内に木が映らずとも、木漏れ日による影も動きの演出として取り入れることができる。
補足:合成
「フリーズフレームに感じさせたくない」といった場合は、テキストや画像、シェイプなどを追加できるカットであるなら、何かしら動くものを合成して追加することで解消を試みる。
ラックフォーカス(Rack Focus)
ピント送り。フォーカス距離を移動する。
フォーカスリングを回す動作を広義でラックフォーカスと呼ぶ場合が多いが、フォーカスリングの動作として考えられることは2パターンある。「別のオブジェクトにフォーカスを移動する」こと、「前後移動する被写体にフォーカスが合った状態をキープする」ことである。
後者のフォーカスの追従はフォーカスのトラック(track)と呼び分ける場合があり、筆者もこれに倣い、この記事では追従をフォーカストラックとして、また被写体が複数あり、ショット中にフォーカスするオブジェクトを切り替えることをラックフォーカスとして扱う。オートフォーカスもメインとされる役割としてはフォーカスの追従だが、オートフォーカス機能で画面タップなどにより奥の人物から手前の人物にフォーカスを切り替えるならば、この記事上はラックフォーカスである。
言葉の正確さなど時代で変わるため、流派による揺れは許容しつつも、その現場、チームごとにどちらの呼び方なのかは決めておいたほうがコミュニケーション上の撮影ミスは減らせるだろう。
このように目の焦点を移すことで主役を切り替える。会話シーンなど、フォーカスだけでカットを切り替えたような効果を持たせられる。強制的に視線を誘導し、「今、どこを視聴すればいいのか」を映像で伝える手段である。
カットを割らない利点は、注目すべきものが実は既に視界に入っていた驚きと、リアリティを損なわないこと。時間と空間を飛ばずにそのまま感じさせ、観客の脳内で視線切り替えの処理に負荷をかけない。代わりにデメリットとして生まれやすいこととして、無駄な間が生まれる懸念があり、アクションと機材オペレーションの難度が上がる。リスクを取ってカットを割らずに伝えたいことがあるのであれば選択する。間延びするだけならカットを割ったほうが親切だ。
ボヤけているもののディテールを徐々に明らかにする。初めは意識の外にあるオブジェクトを、観客に知らせるべきタイミングではっきりと映す。
フォーカシングは通常、ふらつかないよう、滑らかに、しかしスピーディーに行う。どこにもピントが合っていない時間が長いとストレスになり得る。ただしゆっくりと全貌を明らかにしたいといった意図があれば時間をかけてもいい。事前に決めた距離間でラックフォーカスを行う場合、画面を見ながらよりも撮影前にフォーカスリングの回転角度を調べ、フォローフォーカスにマーキングをしておく方が精度が上がる。ホワイトボードのように水性ペンで書いて消せる素材のものであれば線を描き込んだり、そうでなければマスキングテープを貼ったりという方法がある。電動フォローフォーカスの中には、A点、B点の設定ができ、フォーカス距離を制限させるなど精度が上がる便利な製品もある。
アウトフォーカス(Out of Focus)
意図的なピンボケ。だがラックフォーカスの一部として考えられることが多いようで、個別の呼称としてはカタカナで「アウトフォーカス」、「フォーカスアウト」の記述がヒットするが筆者は正解に辿り着けていない。特に英語で検索しても”Out of Focus”はショット内のピントの合っていない範囲や、ミスによるピンボケという意味が一般的で、しかしながら「意図的な」ピンボケ表現もあるよなぁと、本記事ではラックフォーカスと分けて個別の項目を設けた。
ピントを外すことでも表現できることがある。意図的でないピンボケはミスとして受け取られ物語を追う観客の集中力を削ぐノイズとなるため、0にすることは難しいが、可能な限り避けたい。
フォーカシングする場合、夢の世界へのトランジションとして、また、とても見せられない悲惨な状況の表現としても使用可能。よく見えない=明らかにしないことで空白が生まれ、観客の想像力が最大限に刺激される。
フレーム内に点光源を入れることで玉ボケを発生させることが好まれる傾向にある。おそらくピントがどこにも合っていないストレスを軽減する措置として選択されるのだと考えている。夜景では遠景の車やビル群の照明といった材料が多いことで玉ボケを得やすく、照明の減る昼景では水滴や植物の木漏れ日など「探す」ことになるだろう。もちろん玉ボケが本質ではないため必須ではない。
フォーカスを固定する場合、被写体が移動することでピントから外れることも可能。例えば苦痛に歪んだ表情の人物が画面奥に引きずられながらピント外に移動する場合、助けの手の届かないところへ連れ去られる状況を強めることができる。
逆に立ち尽くす人物からカメラが後ろへ移動しても良い。次第に被写体がピント外になる。同じシチュエーションでカメラが前に行くならば脳内に入っていく演出もできる。そのショットの文脈次第だ。
フォーカスロック(Focus Lock)
「置きピン」とも云い、あらかじめ被写体の移動終了地点にフォーカスを合わせておく。フォーカスリングは触らず、被写体の方がベストピントの位置へ移動することでフォーカスが合うようにする。立ち位置となる地面など、映らない場所に印をつけられると楽。
被写体ではなく、ピントが合う位置までカメラを移動する方法も考えられるが、変化し続ける構図と視線誘導のふらつきを考慮しなくてはならないことから多少難易度が上がる。スライダー使用時の効率化として、スタート地点とゴール地点に印をつけ、画面ではなく印を見て移動というのも実用的である。
時間差で明らかにしたいものがある場合はカメラワークではなくアクションによって、視界を遮ることなく表現できる。人物であれば表情や服装など、オブジェクトであれば文字情報などのディテールを最後に明らかにできる。「新たな情報の提示」を引っ張ることであり、ピントが合う前と後で物語が進む必要がある。重要な意味を持たないものに対して行うものではない。
ピントは距離が遠いほど”深くなってしまう”ため、距離がある場合において画面奥への置きピンで被写体が手前から奥へ移動すると効果が薄れる可能性がある。被写界深度の浅い画面手前に置きピンし、被写体は奥から手前に移動してくるのが低難易度である。カメラに限りなく近い状態からであれば、画面奥への置きピンが可能となり、人物が奥へ後退りすることで新たな情報が提示できるのであれば、手前から奥への移動でも良い。
パン(Pan)
カメラを水平に首振り回転させるショット。ショット内で位置関係の手がかりや、新たな情報を与えるために使用する。
雲台のパン棒の操作。
スタートとゴールで全く異なる情景を据えれば、主役やシーンの切り替えができる。画面を横切る演者を追いかければ、出発点の状況説明と演者の感情、目的地への新たなディテールを示すことができる。
スピードにも意味が生まれる。ゆったりとしたパンは徐々に新たな主題が現れる期待感を煽る。素早いパンはアクションの衝撃を補助する役割と空間を飛び越える力がある。「ウィップパン(whip pan)」と云う。
動き始め、動き終わりにガクッとならないよう練習。また、止め際に行き過ぎて戻ることがないよう、スムーズに加速し、スムーズに減速し止められるよう練習する。力を加える限り止める際には多少逆方向に戻る「おつり」が生じる。ハイエンド雲台になるほど、トルクとオイルによる滑らかさによってこのガタツキが生じにくくなる。ゼロにはならない。パン棒をヘアゴムや輪ゴムで引っ張ることで、ゴムの張力の特性により引っ張る距離に応じた力が加わり、スムーズな加減速を行うテクニックもある。
スタート地点が構図A、スタート地点が構図Bとなり、カットでの繋ぎに比べてそれぞれで画を成立させなくてはならないため多少難易度が上がる。イメージ映像やPVなど、横方向にフレームに収まりきらないものをパンで見せる場合も、パン前とパン後の構図を意識できるといい。
ティルトアップ/ティルトダウン(Tilt Up/Tilt Down)
カメラを垂直に回転させるショット。パンと同じで位置関係の手がかりや新たな情報を与えることができる。ヨコの動きとの違いは、タテの動きは力と距離に変化を生む。
力の変化としては、下から上へ振りティルトアップすれば「見上げる」ことになり主題に力を与え、ティルトダウン後に見せる主題は「見下ろす」ことになり力を奪い弱々しくする。距離の変化としては、ティルトアップ、ティルトダウンした状態から水平に戻す場合は、徐々に目線の高さに落ち着くこととなり、観客の心を近付ける効果があり、逆に水平からティルトアップ、ティルトダウンする場合は同じ目線から離れた舞台へ心を離していく効果がある。
ゆったりとしたティルトは力関係を徐々に認識させ、素早いティルトは力の変化自体は弱く感じ、起こった出来事を遅れて認識させる。
パンと同じく、動き始め、動き終わりにガクッとならないよう練習する。「おつり」にも細心の注意を払う。ヘアゴム戦法も悪くない。
プッシュイン(Push In)
カメラを回転ではなく前へ移動させるショット。押し込む。
主題に意識を集中させる力がある。被写体に近づくということは、背景が占める情報量が減っていくことになる(次項で登場する「ポジティブスペース」と「ネガティブスペース」)。主題以外が徐々にシャットアウトされていく感覚を受けるだろう。物語が大きく動き出すきっかけとしてよく使われる。
主題が大きくなり視野が狭まる、共感、高揚感、興奮、物語の外から中へのエネルギー、ポジティブな感情を生む。
観客としても、被写体との意識の距離が縮まっていくという劇的な変化を起こす。
スライダーで行う場合、前後方向にセットし、一定速度で前にスライドする。もちろん動き始めの滑らかな加速と動き終わりの滑らかな減速の習得が必須。カメラが後ろに下がったスタート地点ではスライダー自体が画面に映らないように焦点距離、アングルに注意する。
ハンドヘルドでも揺れを抑えれば十分と筆者は考える。
プルアウト(Pull Out)
カメラを後ろへ移動させるショット。プッシュインの逆。
主題から意識を引き離す力がある。被写体から遠ざかるということは、背景が占める新たな情報量が増えていくことになる。集中が解け、主題から世界全体へと意識がチルアウトする感覚を受けるだろう。シーンの最後やラストカットによく使われる。
主題が小さくなり外側の世界を意識させられる、切り離される、孤立感、無力感、物語の中から外へのエネルギー、ネガティブな感情を生む。
観客としても、被写体との意識の距離が開いていくという劇的な変化を起こす。
スライダーで行う場合、スライダーを前後方向にセットし、一定速度で後ろへスライドする。もちろん動き始めの滑らかな加速と動き終わりの滑らかな減速の習得が必須。カメラが後ろに下がるゴール地点ではスライダー自体が画面に映らないように焦点距離、アングルに注意する。
ハンドヘルドでも揺れを抑えれば十分と筆者は考える。
ロール(Roll)
カメラの向きを変えずに捻じるショット。水平を崩す。
平衡感覚を狂わせ、浮遊感を生む。
安定感を削ぐため、不安感、パニック、恐怖感を煽る力がある。
逆にロール後に水平に戻れば、一気に安心感が押し寄せる。危機的な状況が解決する感覚を受けるだろう。
人間が普段見ることが出来ない動きであり、強烈な効果となる。
安定した天地の回転はジンバルなど特殊機材を使わないと難しい。4k,6kなどクロップ前提で広角で収録し、編集で回転させる妥協案も十分検討の余地がある。
トラッキング(Tracking)
主題となる被写体と同時に移動するショット。後ろから追従(Track)する、もしくは前から先導する。
舞台の移動を丸ごとストーキングできるため、被写体が世界から受ける刺激を追体験する。
後ろからなら被写体と同じ目線、同じタイミングで世界の情報を発見する。前からなら被写体の表情の変化から世界の情報を遅れて視認できる。
被写体とカメラが全く同じスピードを保つことは難しいため、手ブレ以上にフォーカシングに気を配る。画面上で何がどのタイミングで行われるかシミュレーション、リハーサルが物を言う。
トラッキング(Trucking)
カタカナで書くとトラッキングと同じになってしまうね。こちらはトラッキングのことだ。トラッキングと間違えないように。前後のトラッキングではなく、左右のトラッキング。
主題となる被写体と同時に移動するショット。横から捉え続ける。キャラクターを輸送(truck)する。パン、ティルトといった首振りとの違いは、視点の位置そのものが移動するため、前後差のあるオブジェクトが奥行きを強調する視差が生まれる。カメラが観客の頭であるとイメージすると、移動の必要があるのかどうか検討できるだろう。
被写体の進行方向へ画面外から新たな物語を次々とプッシュする。異なる舞台へのシーンの移り変わりをキャラクターと歩幅を合わせて行う。
Trackingに比べれば、被写体との距離は変わりづらいとは言え、手ブレ、フォーカシングに気を配る。経路上に障害物はないか、被写体、オペレーター、互いにどこでスピードが変わる要因があるか、こちらも綿密なリハーサルを重ねよう。
移動方向による物体がフレームを横切るスピード感の違い
ちなみに、前後の動きにおいて物体は広角レンズでスピードが増し、望遠レンズでスピードが落ちる。
上下左右の動きにおいて物体は広角レンズでスピードが落ち、望遠レンズでスピードが増す。前後の逆だ。
アーク(Arc)
被写体を軸に周囲を回るショット。水平に、もしくは垂直に回転する。そのため「オービットショット(Orbit)」とも云う。
ダイナミックに、被写体以外から意識を外すことができる。
軸となる被写体以外が画面外を素早く移動することで、焦点の合い続ける被写体に意識を集中させる。ピントを合わせる意味とは逆に、被写体以外の意識のピントを外す効果がある。
カメラは被写体を軸に「外周」を移動するため、見た目以上に速い速度でカメラを移動する必要がある。ブレを安定させるためジンバルの使用を検討する。
水平のアークショットは予算があればカーブを描くレールを敷いて三脚ごと乗せた台車を押す。クレーンは機材が映り込む瞬間をまず避けられないため、難しい。
垂直のアークショットはドローンや大型クレーンを使い、ティルトと組み合わせることで可能。大掛かりになるためそもそもチャレンジ自体が難しい。
ブームアップ/ブームダウン(Boom Up/Boom Down)
カメラ自体を上下に移動するショット。高さの変更。
クレーンやジブアームで実現可能。
視点が昇るということは神の目に近づき、接地しているオブジェクト/被写体が小さく弱くなる。開放感。また、遮蔽物の奥や、圧縮されている地面のディテールが明らかになる。位置関係を整理する。舞台設定を説明する。
単純に高さの違う位置にある被写体に視点、舞台を移す場合もある。
手前に遮蔽物を置き徐々にシーン全体が見え始めると、情報量が増えていく様を表現できる。
アームの先を被写体に向け、カメラを固定し昇降させる。ティルトと組み合わせる場合もある。
手持ち(Hand Held)
あえて手ブレを活かすことで、「非安定」を感じさせるショット。
臨場感やキャラクターの目線を感じさせる。アクションシーンをダイナミックにしたり、心臓の鼓動、不安、パニックといった落ち着きの無さを表現できる。
完全にランダムな回転揺れが長時間続くと、観客が酔う可能性があるため、意図がない場面では水平は可能な限り死守したい。秩序は必要だ。コントロール下にある無秩序、とでも言えばいいだろうか。
ズーム/ドリーズーム(Zoom/Dolly Zoom)
カメラの前後移動と焦点距離の変更を同時に行う。空間の圧縮/膨張を行うことができる。ある距離を基準とし(多くの場合被写体)、フレーム内で基準となるもののサイズを維持する。俗称でZollyとも云う。
プッシュインしながら広角にすることで、背景だけが遠ざかり空間が膨張する。プルアウトしながら望遠にすることで背景だけが近づき空間を圧縮する演出が可能。観客に”めまい”を起こすほどの劇的な緊張を感じさせることができる。
スムーズなカメラのスライド+ズームリングの操作+フォーカスリングの操作が必要なため、電動でない場合は何度かやり直しが必要だろう。ズームが必要なため、本来ズームレンズでないと撮影ができない。ただし「ズームは画質を考慮しなければ編集ソフトで拡大縮小するのと同じ」と説明した。簡易的に行うのであれば、単焦点レンズで撮影したプッシュイン、もしくはプッシュアウトした映像を、編集ソフトで被写体のサイズが変わらないスピードで拡大、縮小してやれば良い。拡大状態ではもちろん解像度の低下には抗えない。画質より効果が優先される場合は検討できる。デジタル編集ソフトの時代において4kで撮影し、フルHDで納品とする場合、スケール100%以下でのズーミングであれば画質の劣化を抑えた簡易Zollyが実現可能となる。4k素材はフルHDサイズの縦横2倍であることから、フルHDシーケンスではスケール50%~100%で使用できる。これはフルHD目線ではシーケンスの2倍のサイズ(面積4倍)までは画質の劣化が起こらないメリットとなる。
次回はショットサイズ
カメラの動きによる意味について、バリエーションを紹介した。カメラが動くと途端にダイナミックに映るため振り回したくなるが、意図が生まれてしまうという大前提を忘れないようにしたい。カメラを「どう動かしたいか」ではなく、ストーリーテリング上でそのショットの意図を最大限に伝えるために「どう動かさなくてはならないか」を考え、選択する。
次回はカメラと被写体の位置、レンズの画角による「ショットのサイズ」としての種類について意味を知っていく。







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